本 『大東亜共栄圏』 7/21

中公新書大東亜共栄圏

大東亜共栄圏」の発案から変容、自壊まで、日本国内政治、東・東南アジア諸国との関係、自給圏の経済関係、理念と現実、軍政統治と自主独立など包括的に扱った完全版的著作。

構想だけが先走った場当たり的な「大東亜共栄圏」というスローガン。さらに当初の松岡洋右の考えは、列強によるそれぞれの勢力圏の尊重のようなもので、米英との早期講和を前提としているようなものであった。それから、戦況によってそれが無理だとなると、共栄圏の具体化のための会議を事後的に作り、内容と詰めていくというまさに場当たり的な対応であった。

さらに、より大きな図として、米国の輸入に依存する日本が対米決戦をするという矛盾、さらに「大東亜共栄圏」という日本の自給圏確保という実利とアジアの解放という理念(建前)の矛盾が、「大東亜戦争」と行く末と共栄圏の在り方に影響を与えていく。

国内政治の分析では「大東亜共栄圏」の在り方(つまりアジア諸国の統治のありかた等)で諸勢力の対立が見られ、また戦況によって変わっていく。特に面白いのは、戦況の悪化に伴い、重光葵が独立を付与するような「大東亜共栄圏」の新政策を主張して、実際に採用されていくことろだ。占領地での支持を集める目的と、大西洋憲章の理念に対抗した日本側の理念の主張である。ここでの独立は、戦後の独立とは直接に関わっていないと著者はまとめている。(もちろん理念優先の独立支持ではなく実利優先のものではあろうが、もっと積極的に評価してもいいように思えたが。)重光の「東亜新政策」を殊更に評価せず、同圏は場当たり的で独善的だとの基本線を守るバランス感覚とも言えよう。

さらに、米国による東南アジアの海の制海権を握られていったり、東南アジア諸国での戦略物資の生産が順調に進まなかったり、そういった原因によって、段々と「大東亜共栄圏」の中の、東南アジア地域の重要性が低下していき、日満支の小さな共栄圏に収まっていく様子もおもしろい。

様々に変化していく「大東亜共栄圏」の政策を概観できよかった。変化が激しいため歴史的評価も難しく、これからもその評価をめぐって議論あるところだろう。筆者は大東亜共栄圏は場当たり的で独善的だとの基本線で一貫していた。